ジストニア

脳神経焼き手の動き回復


定位脳手術の最中にギターを弾く患者(東京女子医大病院で)

 東京女子医大病院(東京都新宿区)の病棟2階で、「手術中」の赤ランプが光る。手術台には、20歳代の男性が、頭に長い針が突き刺さった状態で横たわり、ギターを弾いていた。

 「指は動きますか」と医師。男性は、左手の指で素早く弦を押さえた。「動きます」。声が高ぶった。

 ミュージシャンを目指すこの男性は、筋肉が硬直する病気、ジストニアで、4年前に左手の自由を奪われた。日常生活では問題がないのに、ギターを持つと指が動かず、満足に演奏できない。精神科での薬物治療は効果がなく、同病院脳神経外科の平孝臣さんに「定位脳手術」を受けた。

 この病気は、脳から筋肉を過度に緊張させる誤った信号が出て発症する。手術では、脳の奥深くにある視床に針を刺し、手の動きに関係する神経の一部を高温で焼いて、誤った信号を妨げる。焼く範囲は米粒大だが、足の動きなどにかかわる神経が近接し、わずかでも場所がずれると、深刻な後遺症が出る。

 そのため、手術は頭部の針を刺す部分に局所麻酔をかけて意識のある状態で行い、針先から弱い電気を流してギターを持つ手の症状の変化などを確かめながら、焼く範囲を慎重に決めていく。手術後、男性の左手の指は滑らかな動きを取り戻した。

 神奈川県鎌倉市のA子さん(26)は昨年2月、この手術を受けた。右手にジストニアの症状が現れたのは中学生の時。鉛筆で字を書こうとすると、手指が動かなくなった。

 「当たり前のことができない」ことを恥じ、両親にも打ち明けられなかった。試験の答案を埋められず、悔し涙を流した。

 左手で書く練習をし、大学で栄養学を学んだ。だが、希望していた食品会社の事務の仕事はあきらめた。

 ペンを持たずに済むと考え、全身の美容を行うエステティシャンになった。それでもカルテ整理などで字を書くことは必要で、左手にも軽い硬直が現れた。

 そこで受けた手術の最中に、右手でペンを握った。治療の直後、硬直が消え、住所がすらすらと書けた。

 この手術は手のジストニアが対象で、平さんは約30人を治療、半数を超える患者の症状が消えた。手術で連載を再開できた女性漫画家もいる。

 「何事にも積極的に取り組めるようになった」と言うA子さんは、念願の事務の仕事に就いた。

 ただ、この手術は、重い後遺症の恐れもある。ジストニアがどれほど仕事や生活の支障になっているか、冷静に判断した上で、手術を受けるかどうかを決めることが大切だ。

 定位脳手術 50年以上の歴史があり、パーキンソン病などの治療で行われてきた。手のジストニアでは歴史が浅く、長期的な治療成績は分かっていないが、パーキンソン病でのデータなどから、手術後、効果が半年間続けば、ほぼ永久的な効果が得られると考えられている。

2005年10月28日  読売新聞)

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