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The story of a Zashikibokko - include reading

ざしき童子のはなし(朗読入り)

( time: 7:21 )

composed by Tomoko Eto

ざしき童子のはなし 宮澤賢治

 ぼくらの方の、ざしき童子ぼっこのはなしです。


 あかるいひるま、みんなが山へはたらきに出て、こどもがふたり、庭であそんで居りました。大きな家にたれも居ませんでしたから、そこらはしんとしています。

 ところが家の、どこかのざしきで、ざわっざわっとほうきの音がしたのです。

 ふたりのこどもは、おたがい肩にしっかりと手を組みあって、こっそり行ってみましたが、どのざしきにもたれも居ず、刀の箱もひっそりとして、かきねのひのきが、いよいよ青く見えるきり、たれもどこにも居ませんでした。

 ざわっざわっと箒の音がきこえます。

 とおくの百舌の声なのか、北上川の瀬の音か、どこかで豆をにかけるのか、ふたりでいろいろ考えながら、だまって聴いてみましたが、やっぱりどれでもないようでした。

 たしかにどこかで、ざわっざわっと箒の音がきこえたのです。

 も一どこっそり、ざしきをのぞいてみましたが、どのざしきにもたれも居ず、ただお日さまの光ばかり、そこらいちめん、あかるく降って居りました。

 こんなのがざしき童子です。


「大道めぐり、大道めぐり。」

 一生けん命、こう叫びながら、ちょうど十人の子供らが、両手をつないで円くなり、ぐるぐるぐるぐる、座敷のなかをまわっていました。どの子もみんな、そのうちのお振舞によばれて来たのです。

 ぐるぐるぐるぐる、まわってあそんで居りました。

 そしたらいつか、十一人になりました。

 ひとりも知らない顔がなく、ひとりもおんなじ顔がなく、それでもやっぱり、どう数えても十一人だけ居りました。その増えた一人がざしきぼっこなのだぞと、大人が出て来て云いました。

 けれどもたれが増えたのか、とにかくみんな、自分だけは、何だってざしきぼっこだないと、一生けん命眼を張って、きちんと座って居りました。

こんなのがざしきぼっこです。


 それからまたこういうのです。

 ある大きな本家では、いつも旧の八月のはじめに、如来さまのおまつりで分家の子供らをよぶのでしたが、ある年その中の一人の子が、はしかにかかってやすんでいました。

「如来さんの祭へ行くたい。如来さんの祭へ行くたい。」と、その子は寝ていて、毎日毎日云いました。

「祭延ばすから早くよくなれ。」本家のおばあさんが見舞に行って、その子の頭をなでて云いました。

 その子は九月によくなりました。

 そこでみんなはよばれました。ところがほかの子供らは、いままで祭を延ばされたり、鉛の兎を見舞にとられたりしたので、何ともおもしろくなくてたまりませんでした。あいつのためにめにあった。もう今日は来ても、何たってあそばないて。と約束しました。

「おお、来たぞ、来たぞ。」みんながざしきであそんでいたとき、にわかに一人が叫びました。「ようし、かくれろ。」みんなは次の、小さなざしきへかけ込みました。

 そしたらどうです。そのざしきのまん中に、今やっと来たばかりのはずの、あのはしかをやんだ子が、まるっきり瘠せて青ざめて、泣き出しそうな顔をして、新らしい熊のおもちゃを持って、きちんと座っていたのです。

「ざしきぼっこだ。」一人が叫んでげだしました。みんなもわあっと遁げました。ざしきぼっこは泣きました。

 こんなのがざしきぼっこです。


 また、北上川の朗妙寺の淵の渡し守が、ある日わたしに云いました。

「旧暦八月十七日の晩に、おらは酒のんで早く寝た。おおい、おおいと向うで呼んだ。起きて小屋から出てみたら、お月さまはちょうどおそらのてっぺんだ。おらは急いで舟だして、向うの岸に行ってみたらば、紋付を着て刀をさし、袴をはいたきれいな子供だ。たった一人で、白緒のぞうりもはいていた。渡るかと云ったら、たのむと云った。子どもは乗った。舟がまん中ごろに来たとき、おらは見ないふりしてよく子供を見た。きちんと膝に手を置いて、そらを見ながら座っていた。

 お前さん今からどこへ行く、どこから来たってきいたらば、子供はかあいい声で答えた。そこの笹田のうちに、ずいぶんながく居たけれど、もうあきたから外へ行くよ。なぜあきたねってきいたらば、子供はだまってわらっていた。どこへ行くねってまたきいたらば更木の斎藤へ行くよと云った。岸に着いたら子供はもう居ず、おらは小屋の入口にこしかけていた。夢だかなんだかわからない。けれどもきっと本統だ。それから笹田がおちぶれて、更木の斎藤では病気もすっかり直ったし、むすこも大学を終ったし、めきめき立派になったから。」

 こんなのがざしき童子です。

        

「セロ弾きのゴーシュ」角川文庫