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Yamanashi December - include reading

やまなし12月(朗読入り)

( time: 5:10 )

composed by Tomoko Eto

やまなし 宮澤賢治

2 十二月

 蟹の子供らはもうよほど大きくなり、底の景色も夏から秋の間にすっかり変わりました。

 白い柔かな円石もころがって来小さなきりの形の水晶の粒や、金雲母のかけらもながれて来てとまりました。

 そのつめたい水の底まで、ラムネの瓶の月光がいっぱいに透きとおり天井では波が青じろい火を、したり消したりしているよう、あたりはしんとして、ただいかにも遠くからというように、その波の音がひびいて来るだけです。

 蟹の子供らは、あんまり月が明るく水がきれいなので睡らないで外に出て、しばらくだまって泡をはいて天井の方を見ていました。

「やっぱり僕の泡は大きいね。」

「兄さん、わざと大きく吐いているんだい。僕だってわざとならもっと大きく吐けるよ。」

「吐いてごらん。おや、たったそれきりだろう。いいかい、兄さんが吐くから見ておいで。そら、ね、大きいだろう。」

「大きかないや、おんなじだい。」

「近くだから自分のが大きく見えるんだよ。そんなら一緒に吐いてみよう。いいかい、そら。」

「やっぱり僕の方大きいよ。」

本統ほんとうかい。じゃ、も一つはくよ。」

「だめだい、そんなにのびあがっては。」

 またお父さんの蟹が出て来ました。

「もうねろねろ。遅いぞ。あしたイサドへ連れて行かんぞ。」

「お父さん、僕たちの泡どっち大きいの。」

「それは兄さんの方だろう。」

「そうじゃないよ、僕の方大きいんだよ。」弟の蟹は泣きそうになりました。

 そのとき、トブン。

 黒い円い大きなものが、天井から落ちてずうっとしずんでまた上へのぼって行きました。キラキラッと黄金のぶちがひかりました。

「かわせみだ。」子供らの蟹は頚をすくめて云いました。

 お父さんの蟹は、遠めがねのような両方の眼をあらん限り延ばして、よくよく見てから云いました。

「そうじゃない、あれはやまなしだ、流れてゆくぞ、ついて行ってみよう、ああいい匂いだな。」

 なるほど、そこらの月あかりの水の中は、やまなしのいい匂いでいっぱいでした。

 三疋はぽかぽか流れて行くやまなしのあとを追いました。

 その横あるきと、底の黒い三つの影法師が、合せて六つ踊るようにして、山なしの円い影を追いました。

 間もなく水はサラサラ鳴り、天井の波はいよいよ青い焔をあげ、やまなしは横になって木の枝にひっかかってとまり、その上には月光の虹がもかもか集まりました。

「どうだ、やっぱりやまなしだよ、よく熟している、いい匂いだろう。」

「おいしそうだね、お父さん。」

「待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んで来る、それからひとりでにおいしいお酒ができるから、さあ、もう帰って寝よう、おいで。」

 親子の蟹は三疋自分等の穴に帰って行きます。

 波はいよいよ青じろい焔をゆらゆらとあげました。それは、また金剛石の粉をはいているようでした。

     *

 私の幻燈げんとうはこれでおしまいであります。

「セロ弾きのゴーシュ」角川文庫