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Richard Thompson/Henry The Human Fly/1972 Island Records Ltd. ILPS 9197/2004 A Wing & A Prayer Ltd. FLED3045



“ちくしょうめ”
“また降ってきやがった”
神が言った。
“もしアンタが神様っていうんなら・・”
大天使ガブリエルがラケットの上にテニスボールを二つ載せ、バランスをとりながら言った。
“オレはアンタが何かしてみせると思ってるんだけど。”
神は豊かな白いあごひげを撫でながら言った。
“うーん、よし、いいか、ぼう大な宇宙の法則全てを使ってだな、一粒の雨も降らせないようにしてやろう。”
神はテニスシューズを部屋の隅に放り投げ、振り返ると観音開きのフレンチ窓を閉めロックした。
“誰一人として雨に濡れないようにだ。”
彼の眉毛はアーチを描き、例の洞察力ある目でガブリエルをじっと見つめた。
“あまり多くを尋ねるなよ。お前を作ったのは誰なのかよく覚えておくんだ。”
“それはそうと風邪なんだよ。”
大天使は激しくくしゃみをし、ポケットのティッシュペーパーを手で探った。“ありがとう、それがほしかったんだ。”
“原因と結果、原因と結果だ。完全な奴なんてどこにもいないんだ。もちろんオレを除いてな。だがオレはこのあたりで事を始めなきゃならない。”
“ハハ、でもアンタの髪は真っ直ぐじゃないな。”
ガブリエルはボウルの中から外国産の紫色のフルーツを一つ掴み、よろっとソファの中へ身を投げ、一息ついたあとそれに噛りついた。彼は酸っぱそうな表情を浮かべた。
“ウヘッ、何て素晴らしい味なんだ、え?こりゃ何週間もボウルの中に置き去りにされたに違いないな。”
彼は一口食べたフルーツをカーペットの上に吐き出し、そのおぞましい味のする唾液が喉を通るのを阻止した。
“近頃、美味に出会ったためしがない。素晴らしいごちそうも何も、この何週間お目にかかっていない。オレはアンタがストライキしてる間にひと仕事すべきだな。”
“オレがお前に言い続けてもお前は聞く耳を持たないんだ。農民は作物を取り入れればすぐに送り届けている。オレはお前が食う時の宇宙規模の災難まで干渉することはできないんだ。それからカーペットの上に吐くな。木曜日まで掃除夫がやって来ないんだ。”
“毎日がひどい休日だ。”
ガブリエルは足元のフルーツを用心深く拾い上げた。一方、神は冷蔵庫にビールを2本取りに行った。
“テニスはしないのか?え?”
ガブリエルはあたかも自分に言うかのように声を荒げた。彼は人々に教えをほどこすのに十分うんざりしていた。神が戻ってきて缶ビールの栓を抜いた。
“ガキ共を連れてきてやらせようかと思うんだが。”
ガブリエルは鼻息を荒立てて言った。
“あら、ご冗談を。アンタは悪魔くんかい?”
“頭の上のワッカが滑り落ちちゃってるよアンタ。オレの言ってることは知性に溢れてんだぜ。近頃は精神的刺激に欠けるからな。”
神はあたかも創造力を活気づけるものがどこかにないかと、辺りをくんくんかいでみた。
“アンタは1000番目の創世記を書き直したいんじゃないのかい?オレはアンタが飽き飽きしてんじゃないかと思ってんだけど。”
“自分のイメージ通りに創造し続けなきゃならないってのは果たして正しいことかね?だいたいオレたちが造った宇宙はオレたちの思い通りになっているが、まだやり残してることがいくつかあるんだ。人間はこれで楽しんでいるのかね?”
ガブリエルは目をこすりながら立ち上がり、窓の方へ歩いて行った。雨はさっきより激しく降っていた。彼は肩をすくめた。
“よし、オレが今から送風人のところへ行って誰がいるか見てこよう。ここでピンポンやってるよりいいだろう。”
“数字を一つ思い浮かべてみろ。”
“何でもいい”
“1から10までの間だ。”
“12”
“12だって?”
神は自分の耳たぶを引っ張った。
“これも一つの数字だと思うね。”
“お気の毒様。そう、アンタがオレを作った。で、オレが12って数字を作ったんだ。”
ガブリエルは気取った笑みを浮かべ、勝ち誇ったように両腕を広げた。
“広大な全宇宙計画だ。”
彼はにやっと笑って電話の受話器をつかんだ。神はため息をつき、自分の右足の裏を掻き、左のふくらはぎも同様に上下に掻いた。
“ああ、お前は正しいと思うね。”
彼は言った。
“アンタもな。”

※ ※ ※

ハエ、ではない。ベルゼブル(悪魔)に忠誠を誓うかのようなモンスターだ。いわゆるイエバエ(呪いのハエ座:南十字星の南隣の星座)は種として最も広く分布している。中国からペルーに至る人類にとってのこの生物に対する内包的な見解が代々伝えられてきた事実がある。生活空間においては、彼は世の中を汚すものであり、忌み嫌われてきた。時代に関して言えば、彼は永遠の存在だ。アレキサンダーはペルシアにおいて彼に勝てなかった。彼はガリアでシーザーを敗走させ、パタゴニアでマゼランを苦しめ、ケープ・サビニでグリーライ(Adolphus Washington Greely 1844-1935:米北極探検家)の勲章を台無しにした。彼はどこにでもいて常に同じだ。オリンポス山の頂上から眠そうな執事のハゲ頭の上まで全てに公平にとまる。地球は月日と共に青ざめていき若さを一新する。海は大陸に取って代わり、両極の氷は熱帯を侵略し、帝国、文明そして民族を消滅させる。そこにはおびただしい数の町が栄え、手下どもは砂漠を渡る、あるいは残忍にも矢によって倒れる、あるいは開拓者によって侵略され抑えつけられる。宗教と哲学は弁論が繰り広げられる中、自らの言葉によって消滅する。詩人のジョークは最後には後継者に道を譲る。絶壁はばらばらに崩れ落ち、好色漢の欲望は自らを破産させ、ついには役人も死んでしまう。しかし常にイエバエは鮭の流れのごとく渡り歩いてきた。彼の輝かしい軌跡によって我々は過去と未来をつないでいる。彼は我々の父親のまゆ毛の中で跳ね回り、我々の息子のピカピカのおつむの上でスケートを楽しむ。彼は王であり、支配者であり、ボスである!彼に乾杯。

Ambrose Bierce(米国ジャーナリスト・作家)による“The Enlarged Devils Dictionary”から抜粋、Victor Gollancz Ltd.承認


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