Welcome to my homepage


The Incredible String Band/Wee Tam & The Big Huge/2010 A Wing & A Prayer Ltd. Fledg'ling FLED 3079



憶は人生の中のあらゆるものに色づけをする。私にとってのインクレディブル・ストリング・バンドの忘れられないイメージは、ロイヤル・アルバート・ホールのボックス席の後ろに立って、満席の会場の垂木に反響する“Maya”の最終コーラスを聴きながら、観客が立ち上がるのを見ていたというものだ。「この仕事は楽勝だ」 私はそう思った。「我々の成功は尽きることがないだろう」と。数ヶ月後、私たちがミックスした『Wee Tam & The Big Huge』に収録の“Maya”の最終小節をマイクとロビンがカットするよう主張したことは、あつれきと打撃の連続の発端となった。それからISBの輝かしいキャリアの上り坂は失速し始めた。何年もの間、いや何10年間も私はその嫌われたミックス部を聴くのを恐れて、このダブル・アルバムを聴くことがなかった。

それから2009年7月にロンドンでの“Cellular Songs”コンサートと、このアルバムのリイシュー計画がもち上がった。私は再び全てを聴かなければならなくなり、そしてスピーカーから様々な記憶が私に飛びかかってきた。私はそのパワーがピークにあったマイクとロビンを聴いている―なんという熟達した演奏、なんという発明の才、なんという大胆さ!同時に、私はその音楽の中にアメリカを聞き取ることができる。もちろんとりわけマイクの歌の中にはディランが存在したが、最初の3枚のアルバムはとてもケルティックで、60年代半ばのエジンバラの霧と炭の煙、そしてスコットランドの丘の緑にあふれている。これらのアルバムのレコーディングまでに、彼らは熱狂的にアメリカとのやりとりを始めていた。

彼らのレコード・コレクションはすでにハリー・スミスのアンソロジーと、アメリカン“ルーツ”の多くのLPを含んでいたが、彼らは旅の途上でその数を増やしていき、ツアーの終わりにLPのぎっしり詰まった箱をスコットランドへ送るためのエレクトラ・レコードの郵便室を確保していた。“I Ain't Got No Home In This World Anymore”(Ducks On A Pond)は、ロビンと私が愛したフォークウェイズのコンピレーションに収録のTwo Gospel Keysによるレコーディングからだ。“Log Cabin Home In The Sky”のメロディは、Texan Eck Robertson(私たちは1967年のニューポート・フォーク・フェスティヴァルで彼に会うことができた)のフィドル・チューンからだ。

このCDは彼らが1968年と1969年のアメリカ・ツアーで、何度もフィルモア・イーストとウェストを満杯にした活気とエネルギーで輝いているし、ぎゅうぎゅう詰めの会場はパチョリ香油の匂いが漂い、ケーキの差し入れや小さな装身具がステージに散りばめられ、コンサート後にはベルベットの衣服に身をつつみ、花で装飾したファンたちが楽屋に押し寄せていた。もっと早い時期から、スコティッシュ・ソングがそこでプレイされ、その活気は彼らに喝采を送る満杯のアメリカのオーディエンスによってもたらされていた―“シックスティーズ”は英国よりも早く、その地でより重要なものになりつつあった。

ツアーは決してゆったりしたものではなかったが、切れ目は必ずあった。“Puppies”はマイクが1人の友人とともに、メンドシーノ郊外の森に滞在したことからインスパイアされていた。一度、私たちはイースト・コーストとウェスト・コーストの間での1週間の休暇を計画した。私はニュー・メキシコ北部のポーヴェニア・キャニオンから長い道のりを北上したところに、数軒の小屋を借りた。日光を浴びながらのハイキングとゆったりした散策は、本当に無上の喜びだった。私たちは樹木におおわれた絶壁に取り囲まれたような気分の高揚を感じていた。5日後、私たちは食料調達のために一番近い町へ行き、地元の映画館でやっているものを片っぱしから観てみようと考えた。しかしオットー・プレミンジャー監督のイカレた映画“It Takes Two To Skidoo”にほとんどおじけづいてしまった。

そこでマイクが私たちを強引にけしかけ、私たちはジャッキー・グリーソンとジョン・フィリップ・ロウが演じるシュールな“刑務所でLSDを手に入れた元マフィアがハリー・ニルソンの音楽にたどりつく”シナリオの中、空っぽの映画館に座ることになった。普段の私は、この手の“ひどすぎておもしろい”駄作は拒絶するが、これはばかげた考えを正当化する以上のものだった。フィナーレは私たちのヒーローを救うべく、サンフランシスコ湾を航行するヒッピー一団が映し出される。

ツアーは再びロサンゼルスのコンサートで始まり、その後、楽屋に入ってきたのは誰あろうジョン・フィリップの兄弟のトム・ロウが引き連れた“Skidoo”のヒッピー・エキストラ一団だった。トムとは親友になり、彼はISB支持者となった。『Wee Tam』の年はそういったマジックが存在したし、私はそのレコーディングと歌の中にそれを聞き取ることができる。“Maya”、“Greatest Friend”、“Log Cabin Home”、“Cousin Caterpillar”、“Circle Is Unbroken”―これら全てが去年のトリビュート・コンサートで歌われ、いかに彼らが特別な能力をもっているかが分かるグレイト・ソングの数々だ。ISBのインテリジェンス、ユーモア、そして愛の精神は、それらがどこでどのように演じられても、音楽を通じて、歌を通じて輝いてくる。

そして私は“Maya”の編集後に現われる鳥のさえずり方さえ好きになってしまった。


ジョー・ボイド
2009年12月 ロンドンにて


ホームへ