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Barbara Dickson/Do Right Woman & From The Beggar’s Mantle…/2006 Vocalion CDSML 8425



あれは1973年のスタインズビー・フォーク・フェスティヴァルでのことだった。そこで彼女と私は同じビラに載っていた。バーバラ・ディクソンは私の夫、ロブをそっとわきへ呼び、自分の音楽的キャリアの将来的な展望について意見と助言を求めた。「私はずっと新しい音楽的展開を求められているの。つまりジョン、ポール、ジョージ、リンゴ…それからバート(・ヤンシュ)なんかのね」 彼女はそういった。「私はどうすべきだと思う?」 ロブはこういった―「いいかい?バーバラ。君はフォーク・シーンでよく知られていて、愛されているんだ。君の知っていることをやり続けるんだ」

もちろん、彼女は彼のアドヴァイスに従わず、その賢明な判断は輝かしいキャリアに向けた第一歩となった―それはロンドンのウェスト・エンド地区での活躍、ワールドワイドなツアー、プラチナ・ディスクになった数々のアルバム、映画音楽のレコーディング(あのすばらしい“Caravan Song”を誰が忘れられる?)、彼女の演技に与えられたオリヴィエ賞、そしてついには2002年に女王から与えられたOBE(大英帝国四等勲士)をみちびくことになった。もし私も自分の歌手としてのキャリアについて彼のアドヴァイスを無視していたら、どうなっていただろうかと思いめぐらすことがあるが…それはまた別の話!

フォーク・ミュージック・シーンからポピュラー・ミュージックへと進出した多くのアーチストたちと違い、バーバラは決して自分のフォーク・ルーツを隠そうとはしなかった。何年もの間、大多数のレコード会社とマネジメント・エージェンシーがフォーク・ミュージックとフォーク・アーチストをタブー視してきた1つの音楽シーンの中で、これは勇気ある手段だ。これらのルーツを遠ざけるどころか、バーバラは広範な音楽界で大きな成功を収めたあとそこへ戻り、1992年から1994年にかけて、アルバム『Don’t Think Twice It’s Alright』と『Parcel of Rogues』をリリースした。そして彼女はアルバム『Full Circle』のリリースにより、再びみずからのフォーク・ルーツに戻った。それは評論家たちによって高く評価された。それらのレコーディングは、彼女の初期からの古いファンたちを喜ばせた。またそれらアルバムは新たなフォーク・ミュージック・ファンを獲得した―とりわけ彼女のヒット・レコードとミュージカルを通じてしか彼女を知らなかった人々だ。そういった人たちにとって、フォークは未経験の音楽ジャンルだった。

したがって、この新しい世代が今、バーバラの初期のマテリアルのリリースに騒ぎ立てているのを聞くのは、特に驚くことではない。デッカのアルバム『Do Right Woman』(1970)と『From the Beggar’s Mantle-Fringed with Gold』(1971)は、コンテンポラリーとトラディショナル・マテリアル両方に全くの気楽さで取り組んだ1人のシンガーの多様性と、円熟したヴォーカルを見事に示したレコーディングだ。

フォーク・クラブとフェスティヴァルで活躍していたバーバラを覚えている者は、彼女が母なる自然から与えられたすばらしい声に頼るだけではなかったことを覚えているだろう。歌詞を注意深くあやつる、彼女のマテリアルに対する愛情とその才能は、オーディエンスを感動させずにはおかないパフォーマンスを生み出していた。そこには感情表現の誠実さとパワーが備わっていた。また歌に命を吹き込む当時の彼女を聞くと、のちに彼女が女優として称賛を勝ちとるのはあるいは驚くことではないのかもしれない。まず第一に、よいトラディショナル・フォーク-バラッド・シンガーはストーリーテラーである。私は27ものヴァースをテクニック的にすばらしい声で美しく歌うが、すてきな‘サウンド’にすぎない記憶だけを今でもオーディエンスに残すシンガーたちを聞いた。一方である者たちは、しわがれ声のウズラクイナのような声でオーディエンスを魅了し、その最初のヴァースの終わりから完全に物語に没頭させていた。バーバラはこのCDでコンパイルされたアルバムが証明するように、リスナーの耳を楽しませ、ハートとマインドをも魅了させる珍しいタイプだった。

バーバラの初期の作品に接した初心者が驚くかもしれないことの1つが、フォーク・クラブで歌われていたマテリアルと、1970年代初頭のフェスティヴァルで歌われていたそれとの、折衷的性質だ。『Do Right Woman』『From the Beggar’s Mantle-Fringed with Gold』は、ミュージカル‘ヘアー’からの“Easy to be Hard”のように、多様性に富んだマテリアルを利用している。ある歌は同時代にフォーク・シーンで活躍していた人気の高いソングライターたち(ラブ・ノークス、アラン・テイラー、デイヴ・グールダー、アーチー・フィッシャー、アラン・ハル)の作品、そして“Lord Thomas of Winesberry and the King’s Daughter”“Fine Flowers in the Valley”といったトラディショナル・フォーク・バラッドだ。

ヴォーカリストにとって、フォークは技術的にマスターするのがたやすい音楽ジャンルとは考えられていないだろう。ラブ・ノークスの“Turn a Deaf Ear”とトラディショナル・バラッドの“Dainty Davie”は歌いやすく思われるが、実のところ、多くのシンガーが息切れしてしまうようなブレス・コントロールを必要とする。バーバラが歌詞の正しいことば遣いを乱すことなしに息を吸うことと、それぞれの節最後の音を持続させるのに十分なパワーをもっていることは、シンガーとしての彼女のスキルを真に証明するものだ。しかも彼女はそれを楽々とやってのけているように聞こえる!またバーバラは“Witch of the Westmorelands”“Fine Flowers in the Valley”といった歌の中で、母音によるメロディの装飾をたしかに増やしているが、それを使うときは趣味よく控え目にしている(多くの母音を加え、リスナーにとってはもはやオリジナルのメロディが完全に失われた曲に陥ってしまう現在の流行とは違う!)。

私にとっては、このCDで特にすばらしい歌唱が4曲で聞ける。“Witch of the Westmorelands”“Lord Thomas of Winesberry and the King’s Daughter”は、全くシンプルにすばらしく、マテリアルに対する情熱とすぐれたヴォーカル・テクニックによって歌われる永遠の物語だ。私は後者の最後で励ましたくならない人は信用できない!アラン・テイラーの“The Morning Lies Heavy On Me”は、ブリティッシュ・フォーク・シーンが生んだベスト・ソングの1つで、若者たちが大声を上げて訴えることなしに戦争に出かけることの絶望的な悲しさとむなしさについて主張する。ここでのアレンジメントは完璧だ。ドラマはバーバラのシンプルなダブル・トラック・ヴォーカルが施され、エンディング近くのハーモニーはとてつもない感情的インパクトをもたらしている。最後に、アラン・ハル作の“Winter’s Song”では、バーバラの最高の歌が聞ける。彼女が「When winter comes howling in」というフレーズで最高音に上りつめるところは、背筋がぞくぞくしてしまう。そう、彼女はこの挑戦的な歌詞を心の底から歌っているから、私たちは反応しないわけにはいかないわ。しかしそれがバーバラの強みだ―心から歌うこと、そしてそれが過去30年間、多くの人が彼女の音楽を好きになった理由だ。彼女の選んだ音楽がどんなジャンルであっても、見事な声と結びついた彼女の誠実さは、さらにファンを増やしてきた―これからも長くそうであることを願う。

(C) ロージー・ハードマン 2006


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