岡野オルガンというのは、何オルガン?                                    

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岡野オルガンというのは、教会や学校のチャペルで讃美歌の伴奏に使用したり、バッハのオルガン曲を演奏したり、家庭での練習のために使うことを目的とした、パイプオルガンと同様の操作方法で演奏できる電子オルガンです。
この目的に造られる電子オルガンは、輸入品および外国メーカーの日本でのライセンス生産で何種類かのものがありますが、純国産の楽器では岡野オルガンと横浜オルガンが唯一のものです。さらに、アナログ方式でストップの音高ごとに完全に独立した音源列を持つ電子オルガンという限定をつけると、おそらく世界唯一です。

 岡野オルガンの特徴として一番大きなことは、アナログ方式の電子オルガンであるということです。(アナログに対する対立概念はデジタルということです。)これを詳しく説明しようとすると恐ろしく長い、難解な文書になりそうですので、端的に申しますと、音の出し方が自然楽器と同じ発想で造られているということです。自然楽器とは何かという疑問が派生するでしょうが、要するに、オルガンのパイプに送風装置を繋いで、間に空気の開閉弁を付け、鍵盤を押すと開閉弁が開くというのが自然楽器としてのオルガンの音を出す手順です。岡野オルガンの音の出し方はパイプの代わりに電子回路の音源が使用されていること、空気のエネルギーではなく電気エネルギーが使用されていることが自然楽器ではない理由なのですが、手順はパイプオルガンと同じです。鍵盤を押したときはじめてその音程を発音する音源回路に電気が供給されて音源回路が発音を始め、アンプとスピーカーで増幅されて音が出る、という簡単な原理で楽器を構成しています。
言い換えますと、鍵盤でエネルギー供給を直接コントロールし、音源(パイプ)を鳴らすのがアナログの方法です。
こんなことは珍しくも何とも無い、当たり前の超初歩的な発想ではないかと思われるでしょう。
それが、現在ではとても珍しいことになってしまっているのです。

 デジタルの方法と比較すれば何が珍しいのか明らかになると思います。
 文字どおりデジタル方式は”数値化”されたデータですべての作業を”処理する”というプロセッサーである訳ですが、まず、鍵盤を押すという作業が数値化されて、押された鍵盤の音高、選択されているストップの種類、押されている時間の長さなどの複合情報がコンピュータの命令受け付け窓口に届けられます。この命令を受けてコンピューターが行う処理は、命令文の解読、情報を予め溜め込んでいるメモリー回路にアクセスして音色データを選択して読み込み、すべての音程、すべての音色がデータになっているわけではありませんから、代表として蓄積されたサンプルデータから、命令された音高と音色を計算して割り出してデジタルデータとして出力し、押された時間の長さ分までデータを保持し続けるためにコピーを繰り返し、デジタルデータのままでは音になりませんからアナログデータに変換し、アナログデータになっても残るデジタルの成分を目立たなくするためにフィルターを通してからやっとアンプスピーカーに到達します。

 ここまでの説明でお分かりいただけることは、鍵盤を押すという行為が多くのプロセスを経て音になるということです。アナログには鍵盤を押すという命令はありますが、数値化というプロセスは無くて、直接音源にアクセスし、音源自身が持っている性質の鳴りだし方で音が出ます。つまり、命令から発音までが直接繋がっていることになりますので、この繋がりがアナログなのです。

 アナログの”直接的な繋がり”を楽器というハードウエアで実現しようとすると鍵盤の数だけ、音色の数だけ、1鍵に与える音高の種類だけ、これらを掛け算した数の音源回路と鍵盤との間を繋ぐ配線が必要になります。すなわち、鍵盤を押すという命令が音源(パイプ)に直接届く為にはそれだけの並列(パラレル)のルートと音源が必要であるということで、大多数のメーカーがアナログ方式を止めてしまった理由は端的にこのことだと思います。
 ちょっと考えてみただけで、その大変さが想像出来ることでしょう。
オルガンを構成するにあたって、ストップは1つでいいのなら話は単純で、鍵盤と音源を鍵盤数分、電線で繋いでアンプスピーカーを用意すれば音は出ます。曲も弾けます。でも、実際、教会で讃美歌を歌うとき、いつも8フィートの静かな音しか出ないのでは寂しいですから4フィート2フィートとストップを増やしていくとたちまち5列8列と音源数を増やす必要が生じ、2段鍵盤も欲しいとなるとさらに4〜5列、ペダル鍵盤も必要となるとさらに3列〜5列の音源が必要で、合計700回路前後の音源が必要になります。
700回路といいますと、造る手間と材料費を考えただけでも、例えば1音の発振器を造るのに、500円で出来たとしても、その700倍は35万円です。これは製造原価でありしかも音源回路のみの値段で、肝心の鍵盤とかオルガンの外形コンソール、アンプ、スピーカー、スイッチ、などの費用もいれると原材料の必要経費だけで100万円とかもっとという数字になってしまい、とても一般に販売出来るようなものは出来なかったというのが30年くらい前の状況でした。
 35年くらい前に世界最高級の電子オルガン(教会仕様)で、アメリカの製品でしたが、当時のサラリーマン初任給が5万円かもう少しというころに、300万円とかそんな値段の電子オルガンがあり、あこがれたものですが、このオルガンの中身の音源回路が幾つあったかと申しますと250くらいだったと記憶しています。
 このオルガンの中身を見せてもらったのですが、びっしりと複雑な配線が幾重にもはり巡らされ、発振回路のために5cm径くらいの巨大なコイルが数十個並んでいました。

 当時最高級のオルガンでさえ250個程度の音源を収容するのがやっとという位、音源回路そのものが大きくて、スペース面でも経費面でも大変だったろうことは容易に推察できます。この頃から10年くらいで部品の小型化、量産によるコスト低下が見られ、さらに新技術開発による計算機の応用がオルガンにも出来るという段階で、電子オルガンのデジタル化の方向に全メーカーが突き進んでいきました。
 研究努力を700個の回路を収納出来るように音源回路の小型化とコスト低下に向けるのではなく、オルガンの音の出し方、音源という考え方そのものを変えてしまう方向に行ったのです。例えで申しますと、700本のパイプが必要なオルガンを造るのに、パイプを700本造ったりしないで、代表のサンプル10本位を選びその音を録音してデジタルデータとして保存し、必要な時(鍵盤を押された時)にサンプルを元にして計算して延ばしたり縮めたりしたデータを700種類、瞬時に計算できるコンピュータ−を作る、という方向性でした。

 これは、例えで言いますと、4声部の合唱は4人で歌うのが最低必要人数ですが、デジタルでは、1人の芸達者な歌手がソプラノ、アルト。テノール、ベースという声を、それぞれ全く違う音程と音色を100万分の1秒ずつ順番に歌って、それぞれの音はコピーして繋げて4声部の合唱を作り上げるという手法です。そんなに器用なことが現代のコンピューターでは可能になっています。デジタルの鍵盤は、たとえ4声部の音が同時に押されても、必ず、4つの音が順番に押されたと認識致します。情報伝達が時間軸で区切られた直列情報だからです。4声部の鍵盤が同時に押されたか、100万分の1秒ずれていたかは通常人の感覚で聞き分けられるものではないという事情で、もっとも効率的な情報伝達手段であるデジタルの手法が音楽の領域でも主流となって来たのです。”効率的で、正確な(100万分の1しか狂わない)楽器”の誕生です。(最新のコンピューターの時間誤差は何万分の1か知りませんので100万分の1は例えの数字と御理解ください。)

 このような流れの中、700個の音源を作ってオルガン1台に収納したほうが良い音がする。演奏者が鍵盤を押す行為によく反応する、と主張する頑固者がおりました。それが1976年開業の横浜オルガン、現在の岡野オルガン工房です。

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