イタリア風ソナタ

 1730年頃からは、曲集のタイトルに「組曲」「コンセール」などと書かれているフランス風の作品以外にイタリアの「ソナタ」と名付けられた新しい様式がミュゼットのレパートリーにも進出してくる。それらは楽曲自体の響きもイタリアのヴァイオリン音楽からの影響を強く受けている。ここに至り、ミュゼットは他の旋律楽器と同等に扱われるようになったかに見える。

 ニコラ・シェドヴィルがヴィヴァルディの名前で出版した「忠実な羊飼い」と題されたソナタ集は、このイタリア趣味の流行を物語る1つの良い例かもしれない。この1737年頃パリで出版されたこの作品集は、6曲のソナタ中6つの楽章がヴィヴァルディ、あるいは当時ヴィヴァルディの名前で知られていた作品のモティーフが使われており、それをシェドヴィルが編曲したものである。その他の楽章はシェドヴィル自身が作曲したものである。
この作品集には編曲作曲者であるシェドヴィルの名前がどこにも見あたらないのだが、1989年にシェドヴィルの従兄弟で宮廷音楽家であったジャン・ノエル・マルシャンの宣誓供述書が発見されて、この作品がニコラ・シェドヴィルのものであることが証明された。

ソナタ第4番はミュゼットではあまり使われることのないイ長調で書かれており、冒頭には、一般的なミュゼットで演奏するときは移調するようにとの指示がある。3楽章には、ソロと通奏低音パートの間に「チェロオブリガート」と指示された第2の旋律が書かれている。

 このオブリガートの旋律を奏でる楽器にチェロとほぼ同音域であり当時フランスの室内楽で一般的に使われていたヴィオラ・ダ・ガンバが指定されていない事は興味深い。この「チェロ」という指示に対して、ソナタ第6番の伴奏パートには、曲中2声に別れる部分の上のパートに「ヴィオール」という指示が見られる。結局のところ、どちらの楽器を使うかは時と場合によりけりで、イタリアのヴァイオリン属の楽器である「チェロ」という言葉を使うことによって、買い手であり演奏者であった音楽愛好家の「イタリア趣味」を刺激したのだと思われる。この曲集に収められている小品の舞曲名、表情記号の全てにイタリア語が使われているのも、このような「イタリア趣味」の反映である。特にソナタ第6番の2楽章は「大聖堂風のフーガ (Fuga da Capella)(アッラ・ブレーヴェ)」と銘打たれており、これは他のどのミュゼット作品にも見いだせない珍しいタイトルである。このソナタの最終楽章は、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集「ラ・ストラヴァガンツァ」(作品4 、1712/13年)の第6番の1楽章を、ソロと通奏低音の形に編曲されたものである。このようなヴァイオリン音楽をミュゼット用に編曲した例では、セナイユのヴァイオリンソナタの編曲(編曲者不明)、ニコラ・シェドヴィルによるダルアバコのヴァイオリンソナタの編曲などがある。特にニコラ・シェドヴィルはこのようなイタリアのヴァイオリン音楽が持つ名人芸的技巧性とその華やかさを相当意識しミュゼットの音楽にもそれを取り込もうとしたように思える。

次へ

ホームへ戻る

★転載禁