タブラチュア譜

 ミュゼットのタブラチュア譜は17世紀の理論書に現れるのみで、一般的に使われたかどうかは明らかではない。そもそも17世紀のミュゼット作品はほとんど現存していないし、あるいは書き残されなかったせいでもある。しかしながら、タブラチュア譜から17世紀のミュゼットの旋律管や指使いなど様々な興味深い事が分かってくる。

 メルセンヌは、ミュゼットの説明にあたって、この楽器のチャンターに、ソプラノ、アルト、カウンターテナーのモデルが存在することを述べると共に、この楽器のためのタブラチュアを紹介している。そのタブラチュア譜は6線上に指穴の数字を示して記譜されるもので、従来の音符表と共に載せられている。このタブラチュア譜のシステムは、36年後に出版されたボルジョンのメソードにも再び採用された事から、17世紀中一般的に使用されていたのかもしれないが、18世紀には全く使われなくなった。


ミュゼットのためのタブラチュア
メルセンヌの「音楽汎論」より

 このメルセンヌのタブラチュア譜から読みとれる事は、最低音がドのC管の旋律管だということが分かる。ファは常にシャープで、これは簡単に付けることが出来るキーによってファのナチュラルも奏することができる。実際、4番の指穴の裏側あたりにキーが付いた旋律管が同書には描かれている。
 疑問となるのは、このタブラチュアが示しているチャンターは、この世紀後半以降のミュゼットに使われたクローズ・フィンガリング・システム(closed-fingering = 閉じた指使い)という特殊な指使いをすでに備えているかどうかという点である。このクローズ・フィンガリング・システムは、現代でも演奏されているイギリスのノースアンブリアン・スモールパイプというバグパイプにも使われている。

 ミュゼットの運指は、旋律管の一番下の指穴以外全て閉じている状態が指の基本位置で、この時キーも同様に穴を塞いでおり、譜面に書かれている音は穴を塞いでいる指あるいはキーを開けることによって音が発音されることになる。 
 指がこの基本位置にあるとき、チャンターからはソの音が発せられており、実際の演奏では指穴を開けた時に発せられる音(楽譜に記されている音符)と指が基本位置にある時のソの音との交代でなされ、その結果アーティキュレーションやスタッカートを可能にしている。(詳しくは「演奏」を参照。)

 もし、メルセンヌのタブラチュアがクローズ・フィンガリング・システムのために書かれているとしたら、一番高い2つの音符はキーを必要としますが、メルセンヌはとくに何も言っていない。
一方、もしこのタブラチュアが、その他一般の木管楽器に見られるオープン・フィンガリング・システムのためのものだとしたら、最高音の2つの音はクロス・フィンガリングとオーヴァー・ブローウィング、つまりその音専用の指使いを使うと同時に管に送り込む風圧を高くする事によってなされたとも考えられる。しかし、タブラチュア上の2つの最高音(ミとファ)にあたる数字は"0"が割り当てられており、明らかにクロスフィンガリングではないと思われる。
 そのことから、このタブラチュアに対応するチャンターはオープン・フィンガリングのものではなく、2つの高音のためのキーを備えたクローズ・フィンガリング・システムのチャンターのためのものだという可能性の方が妥当だと思われる。
 このミュゼットの項目の最後に掲載されている小品「ミュゼットのためのシャンソン」(Chanson pour la Musette)
は、従来の音符表だけで書かれておりタブラチュア譜は載せられていないが、この曲の音域は c'-d''で収まっており高音のための2つのキーを必要とせず、この曲全体をクローズ・フィンガリング・システムのC管のチャンターで演奏する事ができる。

 ボルジョンのメソード(1672年)にもほとんど同じシステムを使ったタブラチュア譜が載せられている。こちらは、タブラチュア譜と従来の記譜法で示された音符表だけではなく、この本の最後に収録されている小品すべてに、タブラチュア譜と従来の譜表の両方が掲載されている。

ボルジョンのタブラチュア譜 対応表

長調

短調

 

ボルジョンは、補助旋律管の6つのキーためのマークも考案した。しかし、巻末の小品集の音域は補助旋律管を必要としないので、そこに示されているタブラチュア譜には補助旋律管のためのマークは見いだせない。

補助旋律管の6つのキーのためのマーク

A flat

A

B flat

B

C

D

指穴表と主旋律管の自然音階のための運指表

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