旋律管

 ドローン管は固定された一定の音を持続させるのに対し、旋律管は演奏者が指で指穴やキーを操作し音程を変え、メロディーを奏でるための管である。初期のミュゼットの旋律管は一本だけの単管だったが、1672年までに主旋律管とその隣に付け足された高音域用の補助旋律管の複管となり、18世紀にはこの複管タイプがミュゼットのスタンダードとして多数製作された。 
 この一般的なミュゼットの主旋律管にはリコーダーと同じような8つの指穴があり、6つないし7つのキーが取りつけられている。高音域用の補助旋律管は主旋律管よりもずっと小さく作られており、指穴はなく、表裏それぞれ3つずつ計6つのキーがついている。主旋律管、補助旋律管の全てのキーは通常閉じた状態になっている。

主旋律管

 初期のミュゼットは1本の旋律管を備えたものが一般的で、その旋律管には1つから3つのキーが備わっていた。
 旋律管を一本だけ備えたミュゼットは、プレトリウスの「音楽大全」(5) やメルセンヌの「音楽汎論」(6)の中の図版や、その他の絵画などに描かれている。
 
プレトリウスの「音楽大全」より

 プレトリウスは「音楽大全」(1619)(5)の19章で、この楽器がフランス製であり、ふいごで送風されるバグパイプであると紹介しています。
 図版の13で描かれているミュゼットは他のバグパイプとは違うページに載せられており、そこでは宮廷の楽器であったクルムホルンやミュートコルネットと共に描かれている。この事はこの楽器が一般のバグパイプとは一線を画していたことと、共に描かれているそれらの宮廷楽器との関係が暗示されているようである。
 そこに描かれているミュゼットには、カヴァーで覆われていないむき出しの革袋に単管の旋律管、ふいご、シャトルドローンを備えているのが見て取れる。


 単管の旋律管を備えたミュゼットはメルセンヌの「音楽汎論」(1636)の(6)中でも採りあげられている。
 ここには刺繍入りのカヴァーで覆われた革袋に単管の旋律管、ふいご、シャトルドローンを備えた楽器が描かれている。
 ここに描かれている旋律管は2つか3つのキーを備えている。


メルセンヌの「音楽汎論」より
 ボルジョンの「ミュゼット概論」(1672)(7)にも、一本の旋律管だけを備えたミュゼットが描かれている。旋律管には1つだけ高音用だと思われるキーが付けられているが、この別のページには、「単純な旋律管」と題して3つのキーを備えた旋律管も描かれている。ボルジョンはこの本の中で、サイズの異なった様々な素材で出来た管がミュゼットの旋律管として使用できると述べている。

 ボルジョンの本には単管の旋律管以外に、幾つかのキーを付加した主旋律管と、高音域を拡張するための補助旋律管を備えた、いわば完成されたミュゼットの旋律管の図も描かれている。(下図左)これは、18世紀に入ってもほぼスタンダードとなるミュゼットの旋律管で、ボルジョンはこの補助旋律管の発明はオトテール氏の「大業績」であると述べている。

「ほとんど毎年のように宮廷バレーの中に見られる、パストラーレや田園風景は、それなしには描写できない。それには小さな部品、すなわちオトテール氏の大業績である補助旋律管が取り付けられている・・・」(p.33)(7)

 66年後に出版されるオトテール・ル・ロマンのメソードの中でも、この補助旋律管が彼の父親であるマルタン・オトテール(Martin Hotteterre (1640頃-1712) )によるものだと述べられている(p.64)(1)

 補助旋律管には裏表に3つずつ計6つのキーが取り付けられており、奏者側のキーは右手の親指、反対側のキーは左手の小指で操作される。この補助旋律管によって、ミュゼットの音域は4度上方に拡張されたのと同時に、限られた範囲内ではあるが、主旋律管と副旋律管で同時に音を出し2声部を演奏することをも可能にした。

 ボルジョンとオトテールのどちらの本にも上部が円筒状で下部は西洋梨型をした補助旋律管が描かれているが、18世紀の一般的なものは、キーの動作をより確実にするために丸みを帯びた部分が平面化された。
 オトテールのメソードが出版された頃には、補助旋律管の形はすでに平面化されていたのだが、そこに描かれている補助旋律管の図は、まだ西洋梨型のもである。しかも、この図はボルジョンの図と酷似している事から、オトテールは、彼が知っていた限りほとんど唯一のミュゼットのためのメソードであるボルジョンの「ミュゼット概論」から、この図を写し取ったのかも知れないという見方もある。しかしながら、オトテールのメソードの本文が始まる見開きのページに描かれているミュゼットも、西洋梨型の補助旋律管を備えていることを考慮したとき、オトテールとそのファミリーはこのメソードが出版された1738年頃に、まだなお西洋梨型の補助旋律管を備えたミュゼットを製作していた可能性もある。残念ながら、オトテール一家が製作したミュゼットは1台も現存していないのでそれを証明する手がかりはない。

いずれにせよ、ボルジョンが描いた旋律管とオトテールのものでは少しばかり異なる部分がある。オトテールの旋律管には2つのキーが多く取りつけてあるのが見て取れる。主旋律管のサイドの ラ のためのキーと、主旋律管の手前下のほうにつけられたソのシャープ の2つのキーである。(上の図の赤く示したキー)。ボルジョンの旋律管では高いラの音は主旋律管の手前、親指のための指穴の真上にある小さなキーだけで奏された。オトテールの旋律管にもこのキーが付いているのだが、18世紀の楽器にはこの小さなキーが取りつけられていないものもある。ソのシャープに関しては、ボルジョンの旋律管では下から2番目の指穴がダブルホールになっており、それを1つだけ閉じることによって奏された。
 なお、このオトテールが描いている18世紀の標準的な主旋律管では、側面の2つのキーはあまりにも接近して重なり合っているので、キーを元の位置に戻すためのスプリングは、どちらのキーにも動作するように1つだけ取りつけてある。奏者側の2つのキーも同様に接近しており、同じように動作するスプリングが取りつけてあり、限られたスペースを有効に使う工夫がなされている。
 18世紀には、上記に記した一般的な主旋律管と副旋律管に、もっと多くのキーを付け足し、音域の拡張をねらったものも現れた。主旋律管を長くし4つのキーを取りつけ低い方へcまで拡張したり、補助旋律管に2つのキーを付け加え高音域を拡張した楽器などが残っている。特に珍しい補助旋律管の例では、大きくブロック状に作られた補助旋律管の上方に8つ、下方に11ものキーを取りつけ、主旋律管で鳴らせない高音域のみならず低音域をも鳴らすことのできるものも現存している。しかし、これらの変形型は例外的だったようで、出版されたミュゼットのための作品のほとんどが、この楽器が持つ一般的な音域(f'-d''')で書かれている。その他、オペラなどでは一般的なハ調、ト調の楽器よりも短3度低いイ調、ホ調用の少し大きめの楽器もよく使われたしニ調、イ調の小さめの楽器も存在した。出版されたミュゼット用の器楽作品の中にもイ長調などで書かれた作品があるが、一般的なミュゼットで演奏するときには短3度上げて移調するよう促す注意書きが、大抵の場合書き添えられている。

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