ふいご

 ふいごはもともと、暖炉などで火をおこす際、その種火の勢いを強くするための空気を送り込む道具だった。
 初期のミュゼットのふいごは、日常生活で使われていたふいごと同じような形をしていたものもあったが、その形は時代を下るに伴い台形になり、アコーデオンのような蛇腹状のスプリングを持つようにもなった。
 ふいごは薄い二枚の板と革で作られており、その2枚の板が向かい合わせに扇状に開く事で、ふいご内部に外の空気を取りこむ。ふいごの空気取り入れ口にはふいご内部に弁が取りつけてあり、空気が逆流して吸い込み口から再び外に出るのを防いでいる。ふいごを絞ると空気はもう一方の口に差し込まれている送風管を通って革袋に送り込まれる。この送風管の革袋に差し込まれている側の先端にも弁が取りつけられており、革袋からふいごへ空気が逆流するのを防いでいる。これらの弁によって、空気は常にふいごから革袋へ一方通行で送られる。二枚のふいごの板の片方は、奏者の腰にベルトで結わえ付けるようになっており、もう一方には腕に装着するための小さいベルトが付いている。オトテールの教則本には、演奏の際のふいごの動かし方を詳細に説明してあり、この本の中程に至るまでのどの曲例にも、ふいごの動かし方を表した番号が示されている。

 ルーヴルにある絵画「アンリ3世の宮廷での舞踏会」(作者不明、1581) には、シャトルドローンはすでに備えているがが、まだふいごは使われておらず口から送風するバグパイプが描かれている。1619年には、プレトリウスがふいご付きのミュゼットを紹介しているので、16世紀の終わりから17世紀の始めにふいごが使用されるようになったのだと考えられる。  
 ふいごを使うことで得られる長所の一つに、演奏者をより優雅に見せるということが挙げられる。トゥリシェ(2) は彼の楽器論の中で、神話に登場するミネルヴァが、演奏するときに顔が歪むという理由でフルート(管楽器一般)を嫌っていたという話を引き合いに出し、

「もし、ミネルヴァがこの楽器の改良を知ることができたならフルートを嫌わなかっただろう」

とミュゼットにふいごを賞賛している。
 実際面におけるふいごのメリットとしては、合計6本ものリードが、息に含まれている水分の影響を受けないので、演奏中に起こりうる音程の変化が最小限に留まるということが挙げられる。それと同時に、リードだけではなく楽器自体も長持ちする。


ファゴトゥム

 ミュゼットへ如何にしてふいごをつけるアイデアが導入されたのかについて、現代のミュゼット奏者であるジャン・クリストフ・マイヤール氏(Jean-Christophe Maillard)(4) (p.62)の推論をここに紹介してみる。

 バグパイプにふいごを使用するアイデアは、ドローンを備えていないファゴトゥム(Phagotum, Phagotus) (3) (左図)という、16世紀中頃のイタリアの楽器にすでに見られる。このファゴトゥムは、元々東ヨーロッパで使われていたふいご付きのバグパイプを、アフラニウス(Affranius)という人がイタリアに持ち帰り、音程が不安定だったこの楽器を改良して出来上がった楽器である。
 その改良作業において、アフラニウスはフェラーラの
ジャン・バプティスト・ラヴィリウス
(Jean-Baptiste Ravilius)
という人の手助けを得たという記録が残っている。

 16、17世紀のふいご付きのバグパイプの例では、スールデリン(Sourdeline)、別名、イタリアのミュゼット(Musette d'Italie)と呼ばれる楽器がある。(右図)
 この楽器は、4本の管を持っていて、特に、非常に複雑なキーのシステムを採用しているのが特徴である。

 メルセンヌ(6) は、このスールデリンを発明したのは、
ジャン・バティスト・リヴァ
(Jean Baptiste Riva)
だと述べている。

 このスールデリンを発明した人物ジャン・バティスト・リヴァ (Jean Baptiste Riva)は、先に挙げたファゴトゥムの改良を手助けしたフェラーラのジャン・バプティスト・ラヴィリウス (Jean-Baptiste Ravilius)と同一人物であるなら、フランスにすでに入っていたこのスールデリンがフランスのミュゼットにふいごを取り付けるアイデアを与えた可能性がある。


スールデリン、あるいはイタリアのミュゼット
メルセンヌの「音楽汎論」より
 そしてさらに、当時まだ単管だったフランスのミュゼットに補助旋律管(プティ・シャリュモー)を付け足すアイデアもこのスールデリンが持つ複管の旋律管と複雑なキーのシステムからの影響かもしれない。

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