シャトルドローン

 ドローン(Drone)とはフランス語ではブルドン(Bourdone)と呼ばれ、どちらもマルハナバチ(大型の密蜂の一種)という意味を持っており、この言葉は鳴り続ける持続音が蜂の羽音のように聞こえる事と関連している。広義の意味でのドローンとは、その音が常に引き延ばされる必要はなく、一定のリズムを持つこともある。しかしドローンは旋律を引き立たせる背景であり、音程は変化せず一定であるという事がどの楽器で奏でられるドローンにも共通している。その絶え間ない一定の音やリズムは、精神に直接語りかける催眠効果があるという考えもある。ドローンを奏でる楽器はヨーロッパを始め、北アフリカ、ギリシャ、トルコ、インド、インドネシアなど広域に見られる。特にヨーロッパにおいてバグパイプ以外のドローンを奏でる楽器には、弦楽器の一種であるハーディーガーディーが挙げられる。このハーディーガーディーはフランス語でヴィエール(Vielle)と呼ばれ、18世紀フランスではミュゼットと同様に田園風の楽器として人気があった。また、18世紀フランスのオペラオーケストラにはミュゼットと並び田園風の楽器のひとつとしてガルーベとタンブーランという一種のテイバー&パイプス(1人の演奏者が笛と太鼓を同時に演奏する)も頻繁に使われたのだが、このガルーベという片手で演奏するリコーダーのような笛を伴奏する大型で縦長の太鼓タンブーランも、ドローンを奏でる楽器の一種といえる。

 ミュゼットにおいてもドローンはこの楽器のもつ田園風の性格を決定的にしている。ドローン管の構造は複雑で、このようなドローン管を持つバグパイプはミュゼット以外には存在しない。特に他のバグパイプには見られないこの独特な形をしたドローンは(シャトルドローン)と呼ばれる。このシャトルドローンは16世紀頃に発明され18世紀に至るまでに様々な変更が加えられた。



(上)ドローンの外側の先端部。
キャップ(ボネット)を取ったところ。

(下)4つのリードがはめられ、
通常外からは見えない、ドローンの先端部。



ルネッサンスラケット各種

 このドローンの先端には4つのダブルリードが装着されており、同時に4つのドローンを鳴らすことができる。通常、このドローンの先端は革袋の中に差し込まれているので、これらのリードは外からは見えない。ずんぐりとした短い円筒形のブロックには直径2mmから4mmの細い内径が何本も通されており、それらの内径を内部で連結させることにより、それぞれの音の高さに必用な長さが作られている。これと同じような仕組みはラケットと呼ばれる管楽器にも見られるが、ミュゼットのシャトルドローンはブロック内に長さの異なる合計4本の管が同居している。
 シャトルドローンの表面には溝が掘られており、溝の底には細長く開けられた亀裂が見える。この亀裂によって内径に流れこんだ空気が外に通じるようになっている。表面の溝にはレイェット(layettes = 古いフランス語で「引きだし」という意味)と呼ばれるスライダーがはめ込まれており、このレイェットで溝の底の亀裂を塞いだり開けたりする事によって、ドローンとして使いたい音を選択したりその音程を調節する事ができる。

 ボルジョンが出版した「ミュゼット概論」(リヨン、1672年)(7)に描かれているミュゼットのシャトルドローンには、非常にたくさんのレイェットがついている。(ボルジョンのミュゼット) その66年後に出版されたオトテールのメソード(1738)(1)の中では、実際オトテール自身、9本の溝に12個ものレイェットを備えたドローンを見たことがあるが、そのようにたくさんのレイェットのついたシャトルドローンは、一昔前のタイプだと述べている。そしてミュゼットのドローンでセットする事のできる調性を掲げている。(下図)


オトテールの「ミュゼット奏法」より

 オトテールに「一昔前のタイプ」と呼ばれた、たくさんのレイェットの付いているシャトルドローンは、様々な調の音を出せるようにセット出来るのだが、シャープ、フラットがたくさん付いた調では、他の管楽器同様に演奏が非常に難しくなってしまう事と、バグパイプの一種であるこの楽器の性能上ハ調ト調以外の調性を演奏する際、主旋律管で奏でられる音とドローンとの間に非和声音を簡単に作り出してしまう。そこで、18世紀に入る頃には見た目も細くスマートになったものが一般的になった。
 すでにボルジョンもハ調ト調がこの楽器に一番良く合う調だと言っており、オトテールもハ調とト調以外の調はほとんど使われることはなく、特にハ調の3度(ミの音)(下図の黒く示してある音符)は滅多にしか使われないと言っている。
 しかしながら、18世紀に入っても舞台音楽の中に出てくる「musettes」あるいは「muzettes」と指定してある楽曲が常に上記の4つの調とは限らないので、一部の職業音楽家の中には様々な調がセット出来るドローンを備えた楽器を使用する事もあったと推測できるが、やはり現存しているミュゼットの器楽曲を見渡してみても、そのほとんどがハ長調、ハ短調、ト長調、ト短調で書かれている。
 一般的にドローンはその楽曲の調性の主和音から3度音を除いた音で構成される。ドローンで選択できる音はハ長調とハ短調の楽曲場合、c-g-c'-g'から選択される。組み合わせは4つあり、c-g-c'-g'(フルストップ)、c-g'、c-c'-g'、c-g-g'、となる。ト長調とト短調の場合、選択できる音はG-g-d'-g'で組み合わせは、G-g-d'-g'(フルストップ)、G-g'、G-d'-g'、G-g-g'、となる。これらの音はレイェットをスライドさせて選択して音程を合わせる。最低音の他に常にg'を選択しなければいけない理由は、音楽上で要求されるアーティキュレーションやスタッカートなど、音が分断しているように聴き手に感じさせるためのトリックに必要であるからである。

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