コラールについて

 バッハの音楽に出て来るコラールについて、簡単に説明しておきます。
コラールとは?

 一般的にはコラール=讃美歌と考えて良いですが、特にドイツでコラールというと、プロテスタント教会で歌われるものをさし、その起こりは、宗教改革の祖であるマルティン・ルターが、ラテン語聖歌をドイツ語化したものや、世俗曲の旋律に聖書にちなんだ歌詞を作詞したものです。
コラールの歌詞

 コラールの歌詞の構造を見てみましょう。下表は「マタイ受難曲」第54曲コラールによる例です。

(音節数) 第1節 第2節
第1行 (7) O Haupt voll Blut und Wun-den, Du ed-les An-ge-sich-te,
第2行 (6) voll Schmerz und vol-ler Hohn, da-fuer sonst schrickt und scheut
第3行 (7) o Haupt, zu Spott ge-bun-den das gros-se Welt-ge-wich-te,
第4行 (6) mit ei-ner Dor-nen-kron', wie bist du so be-speit,
第5行 (7) o Haupt, sonst schoen ge-zie-ret wie bist du so er-blei-chet!
第6行 (6) mit hoech-ster Ehr' und Zier, Wer hat dein Au-gen-licht,
第7行 (7) jetzt aber hoch schimp-fie-ret, dem sonst kein Licht nicht glei-chet,
第8行 (6) ge-grues-set seist du mir! so schaend-lich zu ge-richt't?


  •  同じ旋律に1番2番...と異なる歌詞が付けられた歌は、専門用語で「有節歌曲」といい、「1番」「2番」は「第1節」「第2節」とも言います。

  •  コラールの歌詞は当然旋律による制約を受けるので、1フレーズの音節(母音を単位とする区切り)数は、ちょうど日本の歌の詩の「五七調」あるいは「七五調」と同様に決まってきます。上記の例では歌詞の音節は一貫して「七六調」と言うことが出来ます。その韻律を作る1フレーズを「行」と言います。第1節各行の行末に注目してみてください(下表)。行末の音節が第1・3行と第5・7行で2音節、また第2・4行と第6・8行で1音節、同じ母音や子音が充てられている部分がある、いわゆる脚韻を踏んでいることがわかります(当然第2節も同様です)。

    第1行末 ...Wun-den 第3行末 ...ge-bun-den
    第2行末 ...Hohn 第4行末 ...kron'
    第5行末 ...ge-zie-ret 第7行末 ...schimp-fie-ret
    第6行末 ...Zier 第8行末 ...mir

    コラールの旋律

     コラールの旋律は前述の通り、カトリック教会で歌われていたラテン語聖歌が元になっているものと、その時代に既に存在していた世俗曲が元になっているものが多いです(もちろん新たに作曲されたものもあることでしょう)。「マタイ受難曲」の中では以下の2曲の例が有名です。

  • 第10・37曲 原曲はハインリッヒ・イザーク作「インスブルックよ、私はお前から去らねばならない」という、旅立つ者の心を歌ったもの。
  • 第15・17・44・54・62曲 原曲はハンス・レオ・ハスラー作「私の心は乱れ悩み」という恋歌。

     コラール歌詞の各行の終りにはフェルマータ(または繰り返し記号)があるので目安となるでしょう。フェルマータはJ.S.バッハの時代の演奏では記号の意味の通り、音を伸ばしていただろうとのことですが、今日では音楽の流れなどが考慮され、音を伸ばさない場合もあります。

     コラール旋律の音楽的な1行とコラール歌詞の文学的な1行とはたいてい一致していますが、中には「マタイ受難曲」第25曲コラールのような例外もあります(下表)。

    音楽行
    (音節数)
    文学行
    (音節数)
    歌詞
    1 (8) 1 (8) Was mein Gott will, das g'scheh' all-zeit,
    2 (7) 2 (7) sein Will', der ist der bes-te.
    3 (8) 3 (8) Zu hel-fen den'n er ist be-reit,
    4 (7) 4 (7) die an ihn glaeu-ben fes-te.
    5 (8) 5 (4) Er hilft aus Not,
    6 (4) der from-me Gott,
    6 (7) 7 (7) und zuech-ti-get mit Mas-sen.
    7 (8) 8 (4) Wer Gott ver-traut,
    9 (4) fest auf ihn baut,
    8 (7) 10 (7) den will er nicht ver-las-sen.