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映画『肩ごしの恋人』
日本でもドラマ化されたことが記憶に新しい、女性小説家、唯川恵の直木賞
イ・オンヒ監督は、女性として監督業をしていくことは、本当に大変なんですよ。
『肩ごしの恋人』
イ・オンヒ監督 インタビュー
2007年10月23日 都内某所にて
TEXT:阿佐美澄子
受賞作でもある恋愛小説を原作とし製作された映画『肩ごしの恋人』。『アメ
ノナカノ青空』でデビューし今作でメガホンをとったイ・オンヒ監督が来日し、
お話を伺うことができた。
映画は、たとえ不倫でも、恋愛はクールに楽しむものと考えシンングルライ
フを楽しんでいる、32歳の写真家ジョンワン(イ・ミヨン)と、金持ち男と
結婚し派手なマダムライフをおくっている親友ヒス(イ・テラン)の女性2人
を中心に描かれる。夫の浮気が原因で家を飛びだしたヒスは、ジョンワンの部
屋に転がりこんで…。それぞれの立場で、女性としての幸せのカタチを探していく。
都市ソウルの夜の風景を撮った写真のイメージがいくつも重なっていき、車の
赤いライトがにじんでいくなか、女性の裸体、後ろ姿から映画は始まる…。
オープニングの映像が少し抽象的に描かれていましたが、
どのようなアイデアからですか?
――冒頭のシーンは、撮影中にどうしようかな、と考えていて、撮影途中で思い
つきました。この映画で重点を置いたのは都市と女性。
都市という広い空間の中に人物像を溶け込ませて撮りたいな、と。
今回は主人公がカメラマンでしたので、都会的な感じにしたいと思いこの様な
オープニングにしました。
意図的にこのようにされたのでしょうか?
――抽象的だと思って撮影してはいないのですが。
ソウルに行ったり来たりしながら、都会的な都市の感じを絵作りしました。
原作は日本の小説ですが、韓国人の感覚と日本人の感覚と
文化の違いを感じ、違和感などはなかったですか?
――本を読んだ時は、さほど感じませんでしたが、映画を作るという前提で読ん
でいくとディテールの違いを感じ、それをどうしようか?と考えました。
具体的に、どのようなところでしょうか?
――カフェで結婚式を挙げることもないし、居酒屋でたくさん料理を注文する
こともないです。
そのような些細なことに違いを感じましたが、映画を作りながら、その日本人的
感覚を学習していきました。
韓国的な映画にしてしまうのは、そんなに難しいことではないのですが、
人間が持っている情緒みたいな、共通している部分があるので、違いではなく
その部分を目立たせたいと思いました。

サウンドトラック(音楽)は、監督ご自身で選曲されていますか?
――音楽監督はいるのですが、自分が好きな曲、あと彼が作った曲、選曲した曲
を使っています。
roller corster(ローラーコースター)というバンドがいるのですが、私が好
きなので、彼等に曲を作って下さい。と頼んでみたのですが、いろいろな事情
が重なり(笑)、既存の曲から選んで入れることになりました。
ローラーコースターの曲はオープニングの曲ですよね?
――そうです。エンディングも。
前作の『アメノナカノ青空』の時には、3号線バタフライの曲を使われていま
したよね?
――そう、3号線バタフライ!良いですよね。好きなんですよ。
もともと音楽的にファンでしたので、映像にも合っていましたし、
素敵に使われていた事に嬉しく思いました。
――気にいってもらえましたか?それは良かったです(笑)。
普段からインディーズバンドも良くお聞きになるのですか?
――3号線バタフライは、インディーズですね。
あ、でも。ローラーコースターはインディーズではないんですけど(笑)。
アイドルバンドでもないけど、自分達の音楽的なものがしっかりしていて共感
できます。
音楽はどのようなものを中心にお聞きになりますか?
――エレクトロニクスなモノが好きで、今回もこの映画の音楽監督さんがエレ
クトロニカルなものを作ってくれました。この映画撮影をしている時は、俳優
さん達が演技されている間、エヴリシング・バッド・ザ・ガールを流しながら
演じてもらっていました。
あっ、イギリスの2人組、Everything But the Girlですか!
――ええ、好きなので…(笑)。
いいですよね。今回の映画の世界観にあっていると思います。
映画の流れが、会話で綴っていくかたちになっていたかと思いますが
意識的に撮られたのでしょうか?
――本のなかの会話も面白かったですし、私もそうですけど、女の人達って
おしゃべりが好きじゃないですか。
それで、会話を意識していた部分はあります
会話で綴っていく(フランスの)エリック・ロメール監督とかお好きですか?
――はい。好きですね(笑)。
他には、映画監督でお好きな方はいますか?
――子供の頃はデビット・リンチで、うーん。ブライアン・デ・パルマ、
日本では小津安二郎監督です。たくさんいすぎて、あげきれないほどです。
台詞の中に「男に有利な世の中だ」という言葉がありましたが、
監督もそう思われますか?
――はい、そう思います。
女性監督という立場でそのように感じたことはありますか。
――例えば男性がコレだけ努力すれば出来るという事も、女性ですと、同じく
らいの努力では足りなく、それ以上の努力をしないとダメです。(映画撮影の
現場でも)男性は男性同士の仕事に慣れていて、そちらがやりやすいというの
もあると思います。女性も男性との仕事に慣れているので、女である私との仕
事はやりやすいとは言えないので、自分としては、彼等、彼女達がやりやすい
ように…と。特に気を使っていることです。
やりやすいようにした努力とは、具体的にはどのような事でしたか?
――その時の様子をみて、状況にあわせて努力することです。とにかく努力す
るばかりでしたよ(笑)。
でも気配りが出来るというのは女性の特徴でもあると思いますので、
女性監督ならでは、なのではないでしょうか。
――そうですね。有利であると同時に、すごく疲れます。本当に…。
気を使いすぎると疲れますし、気を使いすぎるのは止めようと思ってはいるの
ですが…髪の毛も抜けますし(苦笑)。
前作『アメノナカノ青空』がヒットして、
今作の監督に抜てきされた訳ですが…。
前作とは意識的に変わったことなどは、ありましたか?
――外的要素はケースバイケースなので、そのときどきに合わせなくてはいけ
ません。自分のなかでは、束縛ではないですが、映画に対して前作よりも深く
考えるようになりました。
前作は、最初の一本目ですから、とにかく一生懸命撮影することで、精一杯
でした。夢にまでみた映画監督でしたから。
その結果、映画がヒットして…。だからこそ2本目は、もっとちゃんと製作し
なければ、という気持ちがあって、前作以上に色々な悩みはありました。悩ん
だからといって、良い映画になる訳ではないのですけど(笑)。

映画製作の際には、脚本通りに撮影していくほうですか?
脚本から外れても、インスピレーションを大切にされるほうですか?
――私は、その中間くらいです。脚本は脚本で映画全体の設計図として考え
ていて、撮影していくうちにでたアイデアなどは、その場に応じて入れること
もあります。でも、大きく脚本から外れて変えたりすることはないです。
最近見られた映画で興味深く感じた作品はありますか?
――何も期待をしないで見た映画が面白かったというのが良いと思うんですよね。
最近見た映画では、結婚式の帰りに時間が空いたのでふらっと立ち寄った映画
ですが、ケビン・コスナーの『ミスター・ブルックス(原題)』が良かった
です。それで、自分としては良かったので、友達に薦めたんですけど、その友達
はあんまり良くなかったそうです(笑)。
大学で同期生でした『子猫をお願い』のチョン・ジェウン監督との交流はまだ
続いてますか?
――もっとも親しい友達です(笑)。
今後、一緒に仕事をしてみたい俳優さんはいますか?
――(笑)。俳優さんに関していいますと、キャラクターに対して似合った方
をキャスティングしたいというのがありますので、すぐには言えないのですが。
女優では『アメノナカノ青空』で一緒にお仕事をしたイム・スジョンさんですね。
あの頃は何も知らずに一緒に仕事をさせて頂いたのですが、今は、とても素敵
な女優さんになられていますので、ぜひとも、また一緒にお仕事をしたいです。
映画作品の話しから少し離れますが…。
2007年の韓国映画界はどのようなものだったと思われますか?
――多くの方々は良くない状況だと言われますし、私もそう思います。
新しい韓国映画を作っていかなくてはならない流れの中で、韓流ブームが起こり、
市場が拡がりました。色々な人達がその市場にたかってくる状況でした。
その時に良くない映画もたくさん作られたのですが、今はそのブームも過ぎて、
その時出来た泡が消えはじめている状態かと思います。現状を把握し、
誠実にとらえ越えていくことが大切だと思います。
チャン・ジン監督に伺った時も、似たような答えを頂きました(笑)。
――(苦笑)。
自分を反省する人がいないということでしょうか…(笑)。
と、話をしてくださった時、ユーモアを交えながらでしたが「本当に疲
れる…」という気持ちがヒシヒシと、こちらにも伝わってきました。それでも、
監督業は楽しい、という気持ちも同時に伝わってきました。この映画の見
どころのひとつは、そんな監督のもとで、生き生きとした表情で演じている、
イ・ミヨンとイ・テランの女優2人の魅力ではないでしょうか。
あわせて。演技をしている時に、Everything But the Girl(EBTG)の曲を
流しながら撮影していたという話をきいた後、頭のなかで、EBTGのクールで
ありながらも、都会的なけだるさと温かみのある曲を流しながら、この映画を
みていると、監督が思い描いていた都市と女性の姿がより鮮明にみえてくる気
がします…。
寒さが身にしみるこの季節、少し厚手のコートの襟をたてて、
映画館に足を運んでみるのはいかがでしょうか?
監督:イ・オンヒ
出演:イ・ミヨン、イ・テラン他
2007年/日韓合作
11月23日、シネマメディアージュほかにてロードショー
公式HP
http://katagoshi.jp/