シネマコリア2007
ヤン・ユノ監督インタビュー

2007年8月 @イイノホール

TEXT:阿佐美澄子


1998年より「映画の上映を通じて、日韓の相互理解と文化交流を促進させる」
ことを目的に設立され、映画ファンに愛され続けているミニ韓国映画祭<シネ
マコリア>。2007年は、東京・名古屋・大阪で開催され「もっと知りたい。韓
国」をキーワードに『懐かしの庭』(監督:イム・サンス、出演:ヨム・ジョ
ンア、チ・ジニ他)『ラジオ・スター』(監督:イ・ジュニク、出演:パク・
チュンフン、アン・ソンギ他)、『ホリデイ』(監督:ヤン・ユノ、出演:
イ・ソンジェ、チェ・ミンス他)、『青燕』(監督:チャン・ジニョン、出
演:チャン・ジニョン、キム・ジュヒョク他)が上映された。東京会場には上
映作品の監督が訪れ、興味深い話が聞けるティーチインをはじめ、交流パー
ティーなども行われた。
そんな多忙な日程のなか、上映作『ホリデイ』のヤン・ユノ監督にお話をうか
がうことが出来た(2社合同インタビュー)。
『ホリデイ』は、1988年に実際に起きた“脱獄囚人質立てこもり事件”を題材
に貧困問題などを描いた社会派の作品。金持ちは裁かれず、貧困者は罪に問わ
れるという社会の不条理を浮き彫りにする。主役のイ・ソンジェは、観客の胸
を突き刺すほどの熱演を見せている。劇中流れる曲「Holiday」は、実際の人
質事件で、犯人達が要求した曲である。犯人達が要求したのは、ビージーズの
曲であったのに、警察が用意したのはスコーピオンズの曲だったという皮肉な
エピソードもあるが、この曲名から映画のタイトルが出来ていると思うと、切
ないメロディがより深く、胸にせまってくる…。



今作のテーマについて、80年代の民主化について…

――人質立てこもり事件をテーマにした理由はありますか?
人質事件自体はとても有名な事件でした。その事件を映画化しようという動き
は10年前くらいからありまして、作りたいという人達はいたのですが、映画に
するのは難しかった。どういう訳なのかはわかりませんが、映画化するにあた
り、私のところに廻ってきたのですが…。私もその事件は知っていまして、辛
い事件なので戸惑いもあったのですが、脚本を読みコレならば出来るのでは?
と思いました。その時に犯人達が言っていた“有銭無罪、無銭有罪”に関して
は、今の韓国社会にも残っているところもあるのですが、もう少し自由に発言
しても良いのではないか、という気持ちもあり製作致しました。

――監督自身は“有銭無罪、無銭有罪”を今の韓国社会において、どのような
場面で感じることがありましたか?
韓国社会において、2年前くらいでしょうか。軽罪犯や政治犯がそうなのです
が、“有銭無罪”と思わされる判決が多くありました。この言葉は媒体などで
も大きく出ましたし、そんな事を目のあたりにして、まだこの様なことは起き
ているのだ。と思わされました。

――作品の中で、ヨ・ヒョンスさんが演じられた役の実際の方が、映画をご覧
になり涙を流されていた、と昨日のティーチインで言われていましたが、具体
的に彼からの感想は聞かれましたか?
あまり言葉はありませんでした。彼は19年間獄中におられて、刑期が満了して
出所された訳ですが、まだ出てきて一ヶ月くらいの時でしたし、あとソウルが
大都市になっていたことにも驚いていて、脅えている感じもあり「感謝します」
とだけ言われました。
付け加えていいますと。映画が一般公開された時、1週目はあまり良くなかった
のですが、口コミで2週目からは観客数も良くなってきました。その時に映画を
観た人達の中から“『ホリディ』を愛する集会”という集まりが出てきまして
ボランティアで映画の宣伝などをしてくれました。その集まりの会長をされた
方が軽罪犯で1年間獄中に入られたのですが、当時お金があれば、1年も入らな
くて済んだ…と言われていました。大衆は、映画自体というよりは“有銭無罪
無銭有罪”お金があれば、軽く済む、という事に対する怒りというものが強
かったのかもしれません。

――80年代で民主化に進んでいくなかで、起きた事件の隠された事実が明るみ
になってくるという事に対して、監督自身は明るみになることを希望的に感じ
ておられますか?怒りが先行しますか?
当時大学生で民主化の過程に多感な時期を過ごしました。その時に色々なこと
を経験しました。そして今、大人になり描いている訳ですが…。民主化されて
変わったところもありますが、まだ根源がなおされていません。その部分を早
く良くなるように、という想いも込めて、後から映画で訴えているわけです。
分かりやすい例で言いますと、全大統領、彼は色々なことから政治生命を切ら
れたわけですが、彼は政治に及ぼす影響力も大きいですし、暮らしぶりも良く
て(笑)、国に対する罰金もまだ出していない。そういう事もあります。罰
金、税金は出さないのに警護員を40〜50人も雇っているんです、ありえないで
すよ(笑)。



映画の内容について…


――イ・ソンジェさんを主役にした理由はありますか?
実は彼は、私の大学の後輩なのですね。常日頃から、私と一緒に作品を製作し
たいと言っていました。私達はとても良い関係にあったので、この脚本を読ん
だ時に、すぐに彼のことが頭に浮かびました。

――実際の事件とは異なり、主人公が逮捕される理由が弟分の理不尽な死に対
する怒りになっています。無許可住宅に住む人々と政府間の争いも、実際とは
違うそうですが。そのようにした、特別な考えがあったのでしょうか?
88年度のオリンピックを目前に控えて、色々なところで撤去作業が始まってい
ました。特にスラムというか、貧民街に住むようなところです。今でいうキン
ポ空港のところもそうです。そこを撤去したのに、高速道路を作るとかで、再
度、撤去したりしました。その時には、その事が社会問題にもなり報道された
りました。それもあり、この映画では、分かりやすくする為に理由をその問題
にもっていくことにしました。今は、中国でも同じ状況でしょうね(笑)。

――その逮捕される場面では、雨が降っていたのですが。以前の作品『風の
ファイター』の時にも重要な場面で雨が降っていました。雨を降らせた特別な
意図はありましたか?
(笑)。本能ですね。理由というのはないのですが…。
私にもわかりません(笑)。

――監督は撮影している時は、インスピレーションで「雨を降らそう」と考え
て進めていくのですか?
突発的なことはないですね。あらかじめ考えています。

――脚本を書いた時には、すでに雨の場面で描いていたのですか?
そうです。主人公(ガン・ヒョク)と弟が童話のように描いている場面がある
のですが、雪の場面です。その部分は、現実離れしたロケ地を求めていたので
すが、色々な意味で。でもロケ地がなかなか見つからなくて、良いと思うとロ
マンチックな感じが足りなくて…。本当に気に入る場所がなくて、仕方なく雪
を降らすことでカバーしました(笑)。本来は最初の場面で使う予定だったの
ですが、最後に使うことにしました。

――それが、冒頭と最後の場面の雪になるわけですね(笑)。
そうです。あとは順番通りに撮影していきました。
『ホリデイ』のような映画は感情移入が難しいので、順番通りに撮影したわけ
です。出来るだけ流れにまかせて撮影しました。実際、監獄でのシーンを撮っ
た後、役者さん達の演技が違っていたのを感じました。

――その監獄のシーンなのですが。映画では、獄中で仲間が出会っていきまし
たが、実際もそうだったのでしょうか?フィクションですか?
刑務所自体はセットなのですが、内容はアメリカ式の刑務所に描いています。
実際の彼等の関係は、その中で同じ部屋同志だった人もいましたし、塀のなか
でも比較的、仲良くやっていた人達だそうです。

――では、あの脱獄シーンのアイデアも事実と同じですか?
ほとんどそうです。準備していた部分もだいたい同じで…。映画なので面白さ
を出すために爆弾のようなものは、映画用です。実は、当時は監修の勤務状態
があまり良くなく、比較的、簡単に脱獄出来たようです(笑)。

――次回作の『仮面』はスリラーとききましたが。
今、9作目の『蟻地獄』という、漫画が原作の映画を撮影に入られるそうですが
…どのような内容になりそうですか?
信じていた自分の旦那が、自分を殺すという内容です(笑)。
99年に発表された漫画なのですが、大ヒットした訳ではないのですが、漫画家
のイ・ヒョンセという人は有名なので、その中では、中くらいのヒットだったと
思います。男性的な漫画が多い方ですが、この原作は女性的ですね。


このインタビューの後…。
2007年12月27日から、韓国で公開されたヤン・ユノ監督作『仮面』は、新し
い形式のスリラーと好評を得ています。次回作も日本で公開されることを期待
すると共に、今後ともご活躍を応援したいと思います。ちなみに『仮面』で主
演したキム・ガンウは、この作品の前に公開された『食客』でも話題の演技派
俳優。今後、日本でも注目される俳優のひとりとなるのでは?とこちらも期待
しています(笑)。
※シネマコリア西村様より、文中の固有名詞の間違い
(前大統領→全大統領(全斗煥 チョン・ドゥファン))
(イ・ヨンセ→イ・ヒョンセ(李賢世))の
をご指摘頂き修正致しました。
ご指摘頂きまして有難うございました!