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interview 1990


 

  ミュージシャンのみならず、様々な分野でユニークな作家活動を続けるブライアン・イーノ。最近は、映像と音の独特なブレンドが特徴のインスタレーションを世界各地で展開してきた彼が昨年に続き来日、池袋の「アムラックス」で最新のAVインスタレーションを繰り広げてくれた。PMC(ぴあMUSIC COMPLEX)では、急拠聞き手として、気鋭のグラフィック・アーティスト、寺門孝之氏にお願いし、イーノの“アート”の秘密に鋭く迫ってみた。

 

今回のインスタレーションを見せていただいて一番最初に感じたのは、会場の暗さということなんです。作品自体は光っているんだけれど、イーノさんはその光っている作品と共にそれを取り囲む暗闇という物も作っているように思えたんですが。

 

 その通りです。例えばニューエイジ・ミュージックと呼ばれる音楽について考えてもらいたいのですが、あの音楽にはほとんどくらい部分、闇の部分がないんですよね。そのことがあの種の音楽をとても軟弱なものにしていると僕には思えるんです。光とともに、僕は自分の作品の中には“脅威”や“恐れ”のような危険な匂いも取り入れたいと思っています。それからもう一つ、会場を暗くすることによって、そこに入ってきた人がその暗闇に慣れるまでの間、一瞬身構えてとまどいを感じますよね。それから徐々にその暗さに慣れていく。僕はそういう状態も作りたかったのです。映画館では映画が始まるときにだんだんまわりが暗くなっていって、それが「さあ、これからあなたは映画の世界に入っていくんですよ」という合図になっています。それと同じ発想ですね。

 

 最近日本ではアーティストのためのアートというアート・ゲームのようなところから離れて、誰でもがもっと自然な形でものを作れるという状況になってきていますが、そういう状況についてどう思いますが。

 

 僕はアーティストというのは一般社会から離れたところにいる特別な存在であるべきではないと思うんです。つまりいろいろな方法でこの世界をデザインしている他の人たちと同じように、アーティストはアーティストなりの方法でこの世界をデザインしていると考えるべきだと思います。だから、もしコックになりたいと思ったら誰にでもそのチャンスがあるように、アーティストになりたいと思ったら誰でもトライできるという状況はとても素晴らしいと思いますよ。初めからアーティストは特別な才能のある選ばれた人間で自分はつまらない凡人だと決めつけるようなことは馬鹿げているし、クリエイティブになることは誰にでもできるはずなのです。ただし間違えてはいけないのは、誰もがコックになれるからといって、それは決して誰もが素晴らしいコックになれるということではありませんよね。まずい料理しか作れなければ誰も食べてくれないですからね。(笑)

 

 記者会見で「役に立つアートを創造していきたい」とおっしゃっていましたが、それはどういうレベルで役に立つということを考えているんでしょうか。

 

 例えばこの窓にかかっているブラインド。これはとても役に立っていますよね。もし気分を変えたいと思ったら、このブラインドで光の量を調整して、好きなように部屋のムードをかえることができる。僕は音楽に関してもそんなふうに、人が気分を変えたいときにその手段として使えるようなものを作れたらいいなと思っているんです。

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 それは音楽以外の作品、例えば今回のインスタレーションなどにも言えるわけですか。

 

ええ、これは`83年に初めて個展を行ったときに思ったことなのですが、自分はどうやら今までなかった新しい空間を作ってしまったらしいと感じたんです。毎日があわただしく過ぎていく都会に住む人にはとても必要で、だけど存在していなかった、たとえていうなら“静かなクラブ”とでもいうんでしょうか。ゆっくりできて何も考えないでいられる、そんな空間です。最近アムステルダムでインスタレーションをやったときには、近くの会社の人たちが昼休みになると必ずやってきて、作品の前に座ってリラックスしていくというのが1週間から10日間も続きました。僕は自分の作品がみんなの生活の中で、そんなふうに役立ててもらえたら本当に嬉しいと思いますね。

 


ぴあ music complex 90.11