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interview 2001


 

  イーノをステージに引きずり出し、しかも歌わせる。もう、この功績を生み出しただけで狂喜乱舞ものだ、フジ・ロック01。最近ではU2、ジェイムスのプロデュースでますますの辣腕ぶりを発揮し、725日発売の新作『ドローン・フロム・ライフ』(ピーター・シュワルムとの共作)では久々にエモーショナルな歌ものを披露するイーノ(でも、自分では歌ってません)。
 ロックが新たなポップ・アートとして未知の可能性に輝いていた時代、72年にロキシー-・ミュージックでシーンに船出し、化粧に柔道着というルックス+当時鍵盤楽器としか考えられていなかったシンセサイザーをノイズ・マシーンとして起用して人々を驚かせ、70年中盤には「音楽/無音」との間にアンビエント・ミュージックという新たな音の領域を生み出し、ループ、サンプリング技術を発明しながら、一方でデヴィッド・ボウイ、トーキング・ヘッズ、ディーボ、U2らのロック名盤を次々とプロデュース、とまさにロック史に名だたる発明王なのである。ここ、20数年、自作においてはパーソナリティーを排除した実験的サウンド、美術館でのインスタレーションなど、より大きくより強くというマッチョイズムとは対極の、ミニマリズム的ロックを模索し、シーンとつかず離れず、結果的にシーンを牽引してきた彼は、今回のフジで何を企んでいるのか? 
 半歩退くことで手に入れた洞察力とアンチ・プレイヤーであるがゆえの奔放な想像力、遊び感覚を持ったイーノにしか語れないロック論をこの機に乗じて拝聴しよう、と電話インタヴューを試みたが……

 

●まず、数10年ぶりのライヴ・パフォーマンスを決意した理由をお聞かせ下さい。

 1つ決め事があるんだ、ライヴをやるなら自分が行きたい国でやるっていうね(笑)。現にロンドンではまったくライヴはやってない。実は、今度の土曜にはポルトガルでライヴをやる予定なんだよ。ポルトガルのポルトという街は、今ヨーロッパの中でも文化的に盛り上がっているところだから一度行ってみたくてね。フジも同じ理由で決めた。

●そんな理由だけですか?

 私はここ数年ずっと自分のスタジオに籠もって、コンピューターとテープ・レコーダーを相手に1人で音楽作りをしていたんだが、早い話がそれに飽きたんだね。再びバンドという形態の中で曲を書き、作品を作り上げる、ということがやりたくなったんだ。1つの素材をその場で完成形まで持っていくには、ライヴはいい方法だと考えたんだよ。だから、ほとんどは、まさに今作っている新曲を演奏する予定なんだ。

●では、バンド形式なんですね。

 そう。ドラムが2人、ギターとべース、バイオリン、私とピーターがキーボードを担当する。それから私は、ヴォーカルもやるつもりだよ。

●えっ、ホントですか!?

 4〜5曲は歌うんじゃないかな。……これは多分に、ジェイムスのアルバムをプロデュースしたことが影響している。そこでは私も結構歌っていて……それでいかに歌うことが好きだったかを思い出したわけだ。妙に生き生きしている自分がいて、とても幸せな気持ちでね。つまり、あのアルバムは私に歌を思い出させてくれたんだ。何よりも歌は、私が音楽を始めた理由でもあったんだから。始めた頃は私だってごく普通に歌ってたんだよ。

●そうですよ。やっと思い出したんですか。

 そう、思い出したんだ…うん。

●これは現役復帰と喜んでいいんでしょうか?

 いやいや、私は単にロック・シーンを利用してきたに過ぎない。私がツアーばかりやるロツク・スターになるなんてあり得ないね(笑)。そんなこと考えただけで悲しくなってくるよ。いやね、この音楽業界にも好きな部分はたくさんあることはある。でも私はシーンの境界線ギリギリのポジシヨンが好きなんであって、真ん中に出て行く気はさらさらないな。

●あなたが25年程前に生み出したループやサンプリングといつた技法は、音楽の民主化をつまり誰もが音楽を手にすることができる可能性を推し進めたわけですが、それはシーンにとってよい結果をもたらしたと思いますか?

 音楽は確かに民主化が進んだね。この状況は、写真の進化ととてもよく似ている。写真も初期の頃は技術が複雑で、特別な道具や薬品、テクニックが要ったけど、今や誰でも簡単に撮れるようになった。音楽も同じで、簡易化されたアート・フォームの一つなんだよ。技術が不要なのだから、写真を撮ったからといって誰も驚かないし感心もしない、写真自体が素晴らしくない限りはね。しかし、誰にでも平等にチャンスが与えられ、その結果として色んな才能を持った人材が集まってきたんだ。たとえばラップは、詩の要素を取り入れた音楽において比較的新しい才能だし、DJもそう。ポップ・ミュージックの強みは、常に新しい才能が入りこめるスペース、つまり包容力があることなんだよ。民主化こそポップ・ミュージック界が健康な体質を維持している理由なんだ。でも民主化には難点があってね、私の元に月に何百枚と送られてくるCDの洪水には参ってる(笑)。年末年始になると家族写真が一斉に送られてくるみたいにね。

●サンプリングの著作権については、現在一つの大きなビジネスになっていて、アメリカには専門の弁護士がいたりするわけですが。

 アメリカは何にでも弁護士が必要なところだから(笑)。アメリカ文化というのは法の社会であって交渉が成立しない国なんだよ。しかしね、交渉というのは本来、人間が持つ優れた能力の一つなんだ。人は互いに話し合い、譲歩することによって共生している。それが機能しない場合に初めて、法に頼ればいいんだよ。確か日本には“ワ(和)”というコンセプトがあったよね。お互いの利害に折り合いをつけながら上手に物事を運べば、本来、法の介入は必要ない。でも、アメリカでは自分たちで解決の糸口を探り当てるというプロセスを放棄し、何か問題が起こるといとも簡単に法に訴えてしまうんだ。だから、アメリカには金儲けしている人間がたくさんいるんじゃないのかな。

●(笑)。しかし、そうした民主化が進み、“アルバム”というパッケージに縛られない活動の場も生れているにも拘わらず、ミュージシャンの多くは、ロックというジャンルの閉鎖性に陥っていますよね。

 まず、だいたいのアーティストは金の管理がなってない。自分が持ってる以上の金を使って、いつのまにか借金を抱えるんだよ。挙句の果てにはレコード会社に原盤の権利を取られるわ、契約は5年、7年と続くわ、しかもその間1年に1枚くらいのハイペースでレコードを作り続けることになる。まあ、その悪環境は少し考えれば避けられるはずのものだから、あまり同情の余地はない。私は誰にも借りを作らない主義だから、作りたいレコードを作って、行きたい時にツアーに行って、好きにやれるんだ。

●なるほど。ところで、たとえばレディオヘッドなどは、あえてアルバムというパッケージにおいて、ロックというジャンルの枠組みを壊そうという実験を模索しているわけてすが。

 レディオヘッドは素晴らしいバンドだよ。彼らはイギリス人のロックに対する取り組み方を体現しているんじゃないかな。あれだけ大きなバンドが実験的なスタイルをとっているというね。アメリカではあり得ない。経営側の人間がこぞって反対するに決まっているし、もしくは「勝手にやってくれ、サイド・プロジェクトでも何でもどうぞ」という態度だろう………ごめん、そろそろインタヴユーを終わりにしたいんだけど……胸が痛むんだ。

●犬丈夫ですか?では、最後に2つだけ。シーンとつかず離れずでいつつ、結果的にロック・シーンを常に開拓してきたあなたにとって、ロックの魅カと可能性とは一体何だと考えますか。

 ………その質間には面白い答えがまったく見つからない。正直に白状すると、ロックについて考えるなんて、一日の025%ほどの時問も費やしてないんだから(笑)。考えたって面白くないし、自分の思考をロックに費やすなんて、もったいないとさえ思う。ロック自体は楽しんでいるよ、ごくたまにね。でも私がロックと関わる時というのは、それをロックではない、何か違うものに変換しようと働きかける時なんだよ。ロックより大きな何かにね。“ロック・ミュージック”って言葉なんて嫌いだと言ってしまいたいくらいだ。とにかく「自分が絶対にやりたくないこと」の一つだね。

●……はあ。

 私は世の中を変えたいんであってね、実際のところロックなんてどうだっていいんだよ。確かに私はロック・ミュージックに時々は関わっている。でもそれは、ほとんど予期せぬ事故みたいなもんだ。

●あなたの意思に反して?

 いや、反してはいない。偶発的というか道を歩けばどうしても足跡が残る。でも私は決して足跡を残すことを目的として歩いているわけではないってことだ。

●では、最後に、現代においてアートの担う役割とは一体何だと思いますか?

 ちょっと待て。何でもっと早くその質問をしないんだ!そういうのを面白い質問というんだ。どうして今頃になって……。私が興味深いと思うのは、人がどうやって自分の考え方を変えていくかってことでね。つまり、そのためにアートがあるんだよ。アートというのは違う自分、新しい自分を試すために自由に実験をし、なおかつ失敗を恐れなくてもいい唯一の領域なんだ。そうだろ?何故ならアートにはリスクが伴わない。もし何かリスクを負ったとしても、それは肉体的なものではないから、簡単に抜け出せるんだ。本を読んでいて怖くなったら途中で閉じてしまえばいいし、聴いている曲が嫌だったら違う曲に変えることも可能だ。つまり新しいことを試すシミュレーターの役割があるんだよ。ジャンボ機を操縦したいといって、いきなり本物に乗りこむ人問はいない。普通はフライト・シミュレーターから始めるだろう。アートにもそれと同じ役割がある……。ほら、こういう話なら余裕で2時間は話せるのに。

●そうですか。では、70年代ポップ・アートとして最も元気たった時代には、ロックも−−−−−。

いや……本格的に胸が苦しくなってきた。電話で長いこと話すと疲れるんだ……

●嫌いなロツクの質問ばかりですいませんでした。でも、御存知かもしれませんが、この雑誌「ロッキング・オン」というんですけど。

そう………じゃあ、悪いけど…… ( 電話を切られる )  ツー ・ ツー

 

 

rockin'on 2001.8  インタビュー 井上貴子


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